土屋俊言語・哲学コレクションの第6巻は題名を「インターネット・学術・図書館」から「学術コミュニケーション革命」へと変更し、刊行へ向けて心機一転となった。先日、土屋氏の還暦を祝う席上で「図書館と出版社とどちらが時代遅れですか?」との質問に「出版社です。出版社は途中までで勉強を止めてしまう。」とのお答えだった。

さて、出版社として今年を総括すると、大学勤務ではない著者が活躍した年だったことが印象深い。極め付きは今月中旬「第1詩集 覚悟」が刊行される黒田まりか氏で、二十歳を過ぎたばかりだ。起立性調節障害、つまりは、立ちくらみ症状からこのような世界を築き上げたとは驚きだ。
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「背もたれのない椅子」
背もたれのない椅子に座っている
視点は平民よりも上にある
人々の髪の生え際を
真上からつれづれと見渡せる
生まれながらにして
審判を下せる位置にいる

地上を懸命に這う二本足に憧れて
階下に飛び移ろうにも
椅子は何故か
その平坦な地面に前触れもなく稲妻の鋭さで刻まれた
底の知れない恐ろしい亀裂の
丁度中心に据えられている

戦後の著名な詩人、黒田三郎氏の有名な詩「賭け」のフレーズ「僕は/僕の破滅を賭けた/僕の破滅を/この世がしんとしづまりかえっているなかで」を思い出させるような詩もある。

「時間」
避けられない身の破滅に
気が狂いそうになるときもある
けれどいつの間にか
いつまでも変わらない落下の速さに
その恐怖も忘れ
耳元を高速で過ぎ去る風音を聞きながら
私は空中で本を読むのだ

戦後の平和を肯定し、月給取りの平穏さと哀感をうたった黒田三郎氏に対して黒田まりか氏は「視点は平民よりも上にある」とうたう。黒田まりか氏は賭けた元手が大きい。6年間の引きこもりなのだ。氏はそのブランクを取り戻すために出版が良い手立てだと高く評価したのだ。